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第8話 朝霧栞を迎えに来た④

Author: 花柳響
last update publish date: 2026-06-18 18:11:49
 振り向きはしなかった。

「……ごめん」

 三年遅れの謝罪は、振り返る理由にはならなかった。

「未央さんを見てあげてください」

 私は言った。

「あなたが今、選んでいる人でしょう」

 司は返事をしなかった。

 廊下へ出ると、広間の熱気が嘘のように薄れた。古い木の匂いと、夜の冷えた空気が混ざっている。

 車寄せには、榊家の黒い車が待っていた。

 車寄せまでの短い距離で、黒振袖の裾が何度も足首に絡んだ。

 歩きにくい。

 それなのに、不思議と戻りたいとは思わなかった。

 背中の向こうで、まだ未央が何かを言っている。琴美の泣き声らしきものも混じった。隆一の低い叱責が、それを押さえ込む。

 その全部が、閉じた扉の向こうの音になっていく。

 玄関の段差の前で、律の車椅子が止まる。相良さんが先に外へ出て、携帯用のスロープを手際よく置いた。

 用意がいい。

 そう思ってから、自分がまだ律を「車椅子の人」として見ていることに気づく。

「寒いですか」

「平気です」

 反射で答えてから、足袋の先が冷えていることに気づいた。

 律は追及しなかった。相良さんが、車内から
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